地理データをゲームエンジンで3D化 デジタルツインで津波シミュレーションと防災活用

こんにちは。テクニカルアート室の武藤です。
近年、広域な自然地形を3Dデータ化してサイバー空間に再現する「デジタルツイン」の活用が進んでいます。その中でも、大きなテーマの一つが「防災」です。
自治体が公開しているハザードマップは非常に有益ですが、平面の地図に浸水域が色分けされているものが多く、住民が「自分のこと」としてリアルな危機感(現実感)を持ちにくいという課題があります。
そこで今回は、国土地理院のDEM(数値標高モデル)データを精度を保ったままゲームエンジン(Unreal Engine)に取り込み、実際の街をサンプルに3D水害シミュレーションを行ってみました。
1. 検証の舞台選定
今回、シミュレーションの舞台として選んだのは「横浜」です。
私自身が暮らす身近な街でありながら、昔から住んでいるわけではないため、過去にこの地を襲った災害のリアルを知りません。
ハザードマップで水害リスクがあることは認知しつつも、どこか現実感を持てずにいたことがきっかけです。
横浜の地理特性
横浜といえば「平地で開けた港町」のイメージが強いかもしれません。しかし実際は、古くからの海岸地形が山となっている、坂の多い街です。
みなとみらい等の観光地や横浜駅周辺など、多くの人が行き交う平地の大部分は「埋立地」であり、人工的な地形と複雑な自然地形が組み合わさっているのが大きな特徴です。

2. 3D空間の構築(データの準備)
シミュレーション環境を構築するため、以下の3つのステップでデータを準備しました。
① 地形・テクスチャの生成
- 基盤データの入手: 国土地理院から目的のエリアのDEM(数値標高モデル)データをダウンロードします。
- ハイトマップ変換: GISソフト「QGIS」を使い、DEMデータをUnreal Engineで読み込めるハイトマップ(高低差を示す白黒画像)に変換します。


- UnrealEnginへのインポート: ハイトマップをUnrealEnginにインポートし、Landscape(地形コンポーネント)として復元。この際、DEMデータの実際の標高と、UnrealEngin上のZ軸(高さ)の数値が一致していることを確認します。





② ランドマーク(ビル群)の追加
地形だけでは現在地が分かりにくいため、位置関係の目印として「みなとみらい」や「横浜駅」周辺の主要な建物を配置し、街並みを再現しました。

③ 海面の配置と予備知識
シミュレーションの基準となる「海面」を設定します。
- 海抜0mとは: 東京湾の平均海面を基準としています。
- 潮差(満潮と干潮の差): 東京湾の大潮時の潮差は約2mとなります。
- 今回の検証では、平常時の海面高さを「0.5m〜1m」と仮定してスタートします。

3. 津波浸水シミュレーションの検証想定
横浜市の津波浸水想定によると、過去に発生した「慶長型地震」をモデルとした津波が発生した場合、満潮時に横浜市内で最大「海抜約4.9メートル」まで浸水すると想定されています。
今回は、このデータをもとに最大5mまでの浸水を段階的に変化させ、3D空間上で可視化します。
注意:実際の発災時の水害パターンは複雑であり、単純な海面の高さだけで測れるものではありません。
本検証はあくまで「地理的な特徴とリスクの理解を深めること」を目的とした簡易的なシミュレーションです。
シミュレーション参考資料 横浜の初期埋立地エリア

4. 検証結果:潮位・津波の高さによる変化
UnrealEngin上の海面オブジェクトの数値を上昇させ、浸水の広がり方を観察しました。
■ 0.5m 〜 1m(平常時の満潮レベル)
- 0.5m(小潮・満潮): すでに横浜駅西口付近で、海抜0.5mを下回っているエリアが確認できます。
- 1m(大潮・満潮): 江戸時代の新田開発によって埋め立てられた地域を中心に、海抜1mを下回るリスクエリアが広がります。






■ 2m 〜 3m(低地・過去の埋立地の浸水)
- 2m: 横浜駅西口付近や、江戸時代の埋立地の多くが浸水します。一方で、関内駅の海側など、浸水していない部分は「元からあった自然地形」であることが視覚的に分かります。
- 3m: 江戸時代〜明治・大正時代にかけて作られた埋立地のほとんどが浸水します。しかし、現代に作られた「みなとみらいエリア」は海抜3m以上で造成されているため、この段階では耐えていることが確認できます。








■ 4m 〜 5m(慶長型地震 津波想定レベル)
- 4m: 「みなとみらいエリア」も浸水が始まります。埋立地だけでなく、元々の自然地形で平地だった部分にも水が押し寄せます。
- 5m: 横浜市の想定最大値(4.9m)と同等。埋立地以外の広範囲な平地も多くが浸水し、坂の多い横浜において「どこが安全な高台か」が明確に浮き彫りになりました。






5. 考察とまとめ
今回の簡易的な3Dシミュレーションにより、自治体のハザードマップが示すリスクを「立体的な風景」として直感的に理解することができました。
検証を通じて、以下の歴史的な地理特性がそのままリスクに直結していることがよく分かります。
- 平常時からのリスク: 横浜駅周辺などには平常時から海抜1m以下の場所が多く存在している。
- 歴史の差: 江戸時代〜明治・大正時代に作られた古い埋立地は今も海抜が低い。
- 現代の対策: 現代の新しい埋立地(みなとみらい等)は、過去の教訓を活かして3m以上の海抜で設計されている。
デジタルツインがもたらす防災の未来
平面の地図を読み解くのが苦手な人でも、自分が知っている街並みが3Dで水に沈んでいく様子を見れば、一目で「ここまで逃げなければ危ない」という現実感を持てます。
DEMデータを用いたゲームエンジンでの地形可視化は、単なるビジュアル表現にとどまらず、住民の防災意識を高めるシミュレーション用途として、非常に大きな可能性を秘めていると感じました。
今後もこうした地理データとゲームエンジンを組み合わせた、実社会に役立つ技術検証を続けていきたいと思います。



